【論文解説】リンパ節ごとのTCRレパトア解析(2)

この記事では、以下の論文を紹介しています。

Stephanie K. Lathrop, Nicole A. Santacruz, Dominic Pham, Jingqin Luo, Chyi-Song Hsieh;Antigen-specific peripheral shaping of the natural regulatory T cell population J Exp Med 22 December 2008; 205 (13): 3105–3117. doi: https://doi.org/10.1084/jem.20081359

論文の紹介とabstractの解説を載せた(1)は、こちらをご覧ください。

【論文解説】リンパ節ごとのTCRレパトア解析(1)

導入部分(introduction)

先行研究を紹介しながら、今まで分かっていること、分かっていないことを明らかにし、

それを受けて筆者達がどんな実験をし、何が分かったのかをより詳細に述べたセクションです。

先行研究①

Tregを一気に除去すると、健康だった動物が「免疫的に無秩序な状態」になり、すぐに死んでしまう

→Tregは自己寛容の維持に重要である

先行研究②

TCRの多様性を制限した(おそらくα鎖とかβ鎖を1種類に固定したマウスの)実験系で、胸腺と末梢のレパトアはとても似ているが、全く同じではない

→Tregは主に胸腺で作られるが、末梢で一部のTregが増殖したり、細胞死を起こすことでレパトアが変化する

(全く同じでないのは、個体差も一因になっていると思います)

先行研究③

臓器があると、その臓器への自己免疫反応の抑制も高まる

臓器に存在する自己抗原は臓器の種類によって異なるので、自己抗原への反応を抑えるTregのレパトアも臓器ごとにことなる可能性がある

例えば膵臓には膵臓にしかないタンパク質があります。だから膵臓には、膵臓にある自己抗原に反応するTregが沢山あるはずです(当たり前では?)

~ちょっと脱線してbackgroundの解説~

ほとんどのTregは胸腺で生まれ、末梢に移行します。胸腺では負の選択を受けて、自己抗原に対する反応性が高すぎる細胞はアポトーシスによって除去されます。

アポトーシスする閾値よりは反応性が低いけれども、反応性が比較的高いような細胞はTregへと分化します。

Tregは、自己反応性のTconvが働きすぎてしまうのを押さえます。

負の選択では、自己に存在しうるタンパク質全てに全てに出会うことになっています。Aire(読み方はエアー)という転写因子が全身のタンパク質を転写することで、

負の選択が起こる時だけ、そこには膵臓のタンパク質も腸のタンパク質も存在しうる訳です。

でも全てのT細胞が全種類の自己抗原に出会って、強く結合しすぎないかどうかテストするなんて無理な話です。つまり、負の選択は完全ではない。

負の選択が完全でないために生じる自己反応性の細胞が悪さをしないようにTregが働いています。

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この論文は、「胸腺で生じたT細胞のレパトアが、末梢で実際に機能するまでの間にどのような変化を受けるのか?」というopen questionに取り組んでいます。

筆者らは2種類の事柄がこの「変化」に関与していると主張しています。

1 レパトアに存在するTCRの種類は変わらないが、その割合が変化する

 抗原に出会ったT細胞は増殖し、抗原刺激を受け取らなかったものはアポトーシスを起こす。役に立つものだけが生き残るような選択を受ける訳ですね。

2 TregがTconvになったり、TconvがTregになることで、レパトアに存在するTCRの種類そのものが変化する

 胸腺では自己抗原に会えず、Tconvとして分化した後に、末梢で自己抗原に出会うことでTregに変化すると言われています。同様に、胸腺で出会うことのない無害な非自己(腸内細菌など)に反応するTconvのTreg化も起こっているみたいです。

  じゃあ末梢で出会う細菌とかの有害なものと自己抗原とはどう区別してるんだ?という疑問が湧きますが、病原体とT細胞が出会う時には一緒に病原体関連分子パターンも認識しているので有害だと分かるんです。

1は一見当たり前に思えるようなことですが、ちゃんと証明はされていないことですし、

まだまだ議論の俎上にあってコンセンサスに至っていないことです。

まだ若い学問である免疫学にはよくあることで、私は免疫学のそんなところにワクワクします。

先行研究④

免疫反応が起こる時にTconvからTregへの変換が起こることが(限定的な条件ではあるが)確かめられている

1種類のTCRしか存在しないように遺伝子改変を行ったマウスで、非炎症下の条件で、そのTCRに特異的な抗原に暴露させると、Tregが増加したという報告があります。

また、T細胞が欠損したマウスにTconvのみを移入(静脈注射などで体内に入れること)すると、その一部がTregになるという報告もあります。

先行研究⑤

TCRのα鎖をある1種類に固定したマウスでは、末梢でTconvからTregへの変換が起こらなかったという報告です。α鎖は自己抗原に反応するTCRのものを使っていたようです。

先行研究同士の内容が相反しているため、先ほど挙げた2 も実はコンセンサスが得られていない事柄になります。

筆者らの実験①

1 レパトアに存在するTCRの割合が自己抗原との出会いによって変化するか?

 というquestionに対して、筆者らは、β 鎖を1種類に固定したマウスを使い、α鎖のレパトアを調べました。α鎖の中でも、Vα鎖を持つα鎖のみを解析しています。

 以下のようにレパトアを分け、比較、解析しています。

 ①Foxp3+のTreg かFoxp3-のTconv

②Tconvに関しては、抗原に出会っていないナイーブな状態(CD44low)と抗原に出会って活性化した状態(CD44high)

 ③ それぞれ脾臓、顎下(cervical)リンパ節、腋窩(axillary)リンパ節、鼠蹊(inguinal)リンパ節、腸間膜(mesentric)リンパ節、という部位ごとの解析

分かったこと①

 TregとCD44highTconvのレパトアは部位ごとに異なる

→組織特異的な抗原を認識することが、部位ごとのレパトアの違いを生み出していることが示唆されました。

 CD44lowTconvのレパトアは部位によらず一定

 抗原に出会うまでT細胞は全身の二次リンパ組織を循環するため、どこの部位でもレパトアが一定なのも肯けます。

筆者らの実験②

2 TregがTconvになったり、TconvがTregへと変化することで、末梢のレパトアは大きく変化するか?

 というquestionに対して、筆者らは、末梢のTconvや胸腺のCD4T細胞をマウスに移入することで検証を行いました。

分かったこと②

 Tregのうち、移入細胞由来のものは4-7%程度と少なかったので、

 末梢におけるTreg⇄Tconvの変換がレパトア全体に及ぼす影響は少ないということがわかりました。

 しかし、T細胞を欠損したマウスに移入した場合はTconv→Tregへの変換が占める割合は大きくなっていました。

 (レパトアにはニッチという概念があり、Tregの割合は一定の範囲に制限されています。

そのため、Tconvしかいない状態ではより多くの細胞がTregに変換されるのも理に適っているように思えます。)

 また、Tregのレパトアに存在するTCRと、抗原に出会って増殖したTconvのTCRは大幅に異なっていました。

次回はようやく、実験結果の説明に移っていきます。

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