【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(1)
今回紹介するのは以下の論文です。
Levine, A., Arvey, A., Jin, W. et al. Continuous requirement for the TCR in regulatory T cell function. Nat Immunol 15, 1070–1078 (2014). https://doi.org/10.1038/ni.3004
https://www.nature.com/articles/ni.3004
Abstract
時期特異的にTregからTCRを除去した時に、Tregがどうなるか、を調べた論文です。
なんでそんな人為的なことをしたかというと、TCRがTregにとってどれくらい重要なのかを調べたかったからだと思われます。
Tregは、TregとしてのアイデンティティであるFoxp3を発現する際にTCRを使用します。
また、分化を終えて活性化する際にもTCRを介して自己抗原と反応する必要があります。
じゃあ確かめるまでもなくTCRって重要じゃないかと思うのですが、
この論文では、分化してから活性化するまでの間におけるTCRの働きを見ています。
あるものの機能を見たい時、生物学者は基本的に遺伝学的手法を用いてそれを取り除き、どんな不都合が起きるのかを観察します。
最初からTCRを取り除いたらそもそもTregが生まれなくなってしまうので、機能を見たい時期に絞って、除去を行います。
今回は、「分化し終わってから活性化するまでの間」に「TCR」の除去を行っています。
結果
- Foxp3の発現量は変わらない
- Tregに特異的に発現する遺伝子も特に変化なし
- IL-2に対する感受性や、IL-2の消費も変化なし
しかし、IRF4のような遺伝子の一部の発現量が低下しており、それは活性化したTregに特徴的な遺伝子でした。
IRF4はインターフェロンの転写調節因子みたいです。
Introduction
イントロって筆者の豊富な知識の一端が見られるので好きです。
Tregの性質で私が知らなかったものを挙げていきます。
TregはTCRのシグナル伝達が全体的に「鈍い」ようです。
TCRから入るシグナル伝達はかなり複雑なのですが、その途中にある色々な段階でその「鈍さ」が明らかになっています。
Tconvに比べて、出発点であるTCR刺激が同じであっても、
- カルシウムイオンの流量が少ない
- Aktというキナーゼ(リン酸化酵素)の活性が低い
- Erkのリン酸化が少ない
という特徴があるようです。
Foxp3自体が、TCRシグナル伝達に関わる幾つかの遺伝子の発現を抑制するという働きを持っています。
また、TCR刺激によって初めてTconvが発現するような表面分子を、Tregは最初から持っています。
CD25(IL-2の受容体),CD39、CTLA-4のことです。(これって 所謂Treg signature gene? )
Result
TCRを時期特異的にノックアウトするために、筆者らがどのようなマウスを作製したか。
Trac-floxマウスとFoxp3-eGFP-Cre-ERT2を掛け合わせたものです。
-loxp-TCRα鎖定常領域-loxp- という遺伝子を持つ前者のマウスは、
creというタンパク質があると、loxpに挟まれた部分が切り取られます。
Foxp3-eGFP-Cre-ERT2は、Foxp3が発現するとGFPが光り、
更に、Foxp3が発現する細胞でcre-ERT2も発現します。(eはenhancedのeなので)
タモキシフェンを外から投与すると、creが酵素として機能するようになり、
Treg特異的にTCRのα鎖が発現しなくなる、という仕組みです。
α鎖がなくなることでβ鎖とのペアができなくなり、TCRが細胞表面にでなくなります。
タモキシフェンは生後0日後と1日後に口から投与し、9日目に解析を行いました。
結果は(2)で述べます。
【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(2)