【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(5)
今回紹介するのは以下の論文です。
Levine, A., Arvey, A., Jin, W. et al. Continuous requirement for the TCR in regulatory T cell function. Nat Immunol 15, 1070–1078 (2014). https://doi.org/10.1038/ni.3004
https://www.nature.com/articles/ni.3004
前回の記事はこちら:【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(4)
Supplementary Fig 6
TCR があるとTregの接着性も高まることがin vitroでわかった
in vitro(生体外での、試験管やシャーレの中での培養系)では、
Tregが抑制活性を保つためにはTCR刺激が必要です。
TconvとTregのエフェクター機能には異なるシグナル伝達が関与している可能性があります。
Tconvのエフェクター機能には、Zap70というキナーゼの活性に依存していますが、Tregがどうかはわかっていません。
一方、Tregのエフェクター機能には、
①膜近位のインテグリンによるインサイド-アウト活性化
↓
②抗原提示細胞(APC)とTregの相互作用の増加
が必要であることが分かっています。
前者に関しては馴染みがないので補足しますと、
細胞接着分子のインテグリンは、細胞内→細胞外と、細胞外→細胞内の両方向にシグナルを伝えることができます。
インサイドアウトなのでTregの活性化に必要なのは細胞内→細胞外のシグナルってことになります。
TCRが、インテグリンとAPCのどっちの反応に関与することで、エフェクター活性化を促進しているのかを検証するため、
②筆者らはTCRのあるTreg、TCRの無いTregをマウスから取り出し、
主要な抗原提示細胞の一つである樹状細胞(DC)と一緒に培養することで、
TregとDCの接合を観察しました。
培養開始から30分の間には特に変化が無かったようですが、
一晩培養を行うと、TCRが無い方が有意にDCとのくっつきが弱くなっていました。
この「くっつき」は、DCからMHCクラスII分子を除去しても変化しませんでした。
MHCはTCRと相互作用する、APC表面に存在する非常に重要な分子です。
TCRに依存して変化するのに、TCRの反応相手であるMHCには依存しないとはどういうことでしょうか。
Tregは活性化すると細胞接着分子による接着が強まる
②が棄却されたので、残る可能性は①です。
今までの実験で、TCRがないとナイーブなT細胞の割合が多いということが明らかになってきました。
T細胞が活性化したことによってインテグリンの活性も上昇し、くっつきやすくなったと考えれば、
より活性化しやすい、TCRありのTregの方がくっつきやすいことに説明がつきます。
この場合、TCRの関与は間接的なものになります。
確かに、インテグリンの一種であるLFA-1の発現量は、ナイーブなCD44lowの細胞集団よりも、活性化したCD44highな細胞集団の方が高いことが知られています。
あくまでシャーレ上の実験であり、マウスなどを用いたin vivoでの検証をしないと断定はできませんが、
「TCRがあるとTregの接着が強まる」という現象は、TCRが接着を行っているのではなく、
「TCRによってTregが活性化する→インテグリンなどの活性化によって接着能が高まっている」
というのが実情なのではないかと思われます。
Fig 5
発現量の異なる遺伝子は何か?
TCRはどのようにして活性化に寄与しているのか??
仮説を立てるための取り掛かりとして、筆者らはRNA-seqを行いました。
発現量に有意に差が見られた遺伝子からメカニズムを考察するのは、皆がうんざりするくらいよくやっていることです。
エフェクターTregの方がナイーブなTregよりもTCRの発現量が高いそうです。
つまり、同じ活性化状態で比較しないとTCRの影響を正しく考慮することができない可能性があります。
そこで筆者らは、比較する組み合わせを次のように設定しました。
- CD44highCD62Llowのエフェクター型で、TCR有り vs TCR無し
TCRが無くなると、155遺伝子↑5遺伝子↓
- CD44lowCD62Lhighのナイーブ型で、TCR有り vs TCR無し
TCRが無くなると、16遺伝子↑1遺伝子↓
- TCR有りで、CD44highCD62Llowのエフェクター型 vs CD44lowCD62Lhighのナイーブ型
エフェクターになると、535遺伝子↑そのうち1/4を占める136遺伝子がTCRの有無に依存
そのうち82%を占める127遺伝子が、TCRが無くなることで発現減少するもの
また、Foxp3の有無による発現量の違いを横軸にして、先ほど見つかった、TCR依存的に発現量が異なる遺伝子を積み重ねるようにプロットすると、
TCR依存的かつFoxp3の有無によらない遺伝子というのが多く存在していました。
つまり、Foxp3では、TCRの有無による遺伝子発現の変化を説明することができませんでした。
TCRがあると発現が上昇する遺伝子
- NFAT,c-Rel
- Bcl-6,IRF-4 : effector Treg(eTreg)の分化と機能に重要
- Vcam1 : 唯一発現量が変化した接着分子
- IL-1R2 : IL-1の「おとり」受容体、つまりシグナル伝達を阻害するもの
- CD83,CD200,LAG-3 : 免疫反応を阻害する分子
- IL-10, EBI3 : それぞれIL-27とIL-35というサイトカインのサブユニット
TCRがあると発現が減少した主な遺伝子
- CXCL10, CCL1とその受容体 CCR8 : ケモカイン
これらのヒントから筆者らは以下のような仮説を立てました。
TCRがあると、弱いTCRシグナルが常に入る
→ケモカインやその受容体が発現する
→Tregが抑制する対象の近くに行く
(6)ではこの仮説をどう検証したかを解説していきます。