【論文紹介】Tregの抑制能にTCRが必要(2)

今回紹介するのは以下の論文のResultです。

Vahl JC, Drees C, Heger K, et al. Continuous T cell receptor signals maintain a functional regulatory T cell pool. Immunity. 2014;41(5):722-736. doi:10.1016/j.immuni.2014.10.012

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1074761314003884

前回(summary, intro)はこちら【論文紹介】Tregの抑制能にTCRが必要(1)

Result Fig1

Mx1-cre Tcra Flox/Flox, Foxp3-I-eGFPマウス

筆者らが使用したマウスは、Mx1-cre Tcra Flox/Flox です。

Mx1-というプロモーターの下流にcreリコンビナーゼタンパク質があり、

creが、loxP配列に挟まれた(これをfloxと言います)TCRのα鎖を切り出すことによって、ノックアウトが起こります。

Mx1プロモーターは、人工的に合成した二本鎖RNAを投与すると、その下流にある遺伝子の転写を開始します。

投与する合成RNAとしてPoly I:Cが用いられました。Iはイノシン酸、Cはシチジル酸というリボヌクレオシド(リボースという五糖+塩基)のことで、Cは生物のDNAを構成するGATCのうちC(シトシン)を転写したときに出来るものと同一です。

Iだけの鎖とCだけの鎖を結合させた二本鎖です。wikiの図解がわかりやすいです。https://en.wikipedia.org/wiki/Polyinosinic:polycytidylic_acid

少し話が逸れました。

このマウスにpoly I:Cを投与してから2週間後には、Tregの25%がTCR発現を失っていたようです。

さらに筆者らは、このマウスにFoxp3-I-eGFPマウスを掛け合わせることによって、

核内染色をしなくてもGFPによってFoxp3の発現が分かるようにしました。

(eはenhancedの意味で、GFPの強化版ってことです。IはIRES ?)

Foxp3発現の維持にTCRは必要ない

poly I:CでTCRを除去してから6週間後にマウスを解析しました。

これによって、1ヶ月ほど末梢を生き残ったTCR欠損(TCR-)Tregを観察することができます。

1ヶ月経過した後でもTCR-TregのFoxp3発現やCD25の発現は高く維持されていました。

むしろCD25 lowな細胞は存在せず、CD25 highな集団だけが残っていました。

まず筆者らは、creによる組み替え自体はCD25 low Tregでも起こっていることを、以下のように予測しました。

creは発現するがTCRのノックアウトは起こさず、組み替えが起こったことを色で示す

mT/mGレポーターマウスによって示し、CD25 LowでのCD25発現が上昇したか、CD25 lowなTregは生き残れなかったかのどちらかである

しかし、どちらなのかまでは踏み込まず、今後TCR-TregとTCR+ Tregを比較する際には、TCR+TregはCD25 highなものだけを用いると定めるだけに留めています。

TCR- TregのFoxp3-GFP発現は、TCR+ Tregと変わりませんでした。

また、Fig3の内容ではありますが、Foxp3によって制御される遺伝子の発現も一部は変化していませんでした。

発現量が低下していたものもありましたが、それはFoxp3とTCRシグナルの両方に依存するような遺伝子であったと考えられます。

この結果から筆者らは、分化の際にTCR刺激によって誘導されるFoxp3が安定で、

その後のFoxp3の維持にTCRシグナルは必要ではないと主張しています。

Treg特異的なメチル化パターンは、TCRを除去しても変わらない

Tregを規定するのはFoxp3の発現だけではありません。

Foxp3は末梢で新たに発現を誘導されたり、逆に失ったりします。

可逆的な変化が無いという点で真にTregらしさに対応しているのはメチル化パターンです。

TregはFoxp3,Gitr,Ctla4,Ikzf4(EOS)が脱メチル化されています。

すると、Tregの有無にかかわらず、メチル化のパターンは共通していました。

これらの遺伝子にコードされたTregに特徴的なGITR,CTLA-4,Eosの発現量を比較すると、

Tconv < TCR- Treg < TCR+ Treg

となっていました。

Fig 2

TCRを除去すると、eTregが徐々に減っていく

naiveなTreg(cTreg)のマーカー: CD62L, CCR7

effectorなTreg(eTreg)のマーカー : CD5,CD38,CD44,Ox40,GITR,CD69, ICAM-1

CCR7high, CD62L lowのcTregの割合は、TCRを除去しても変化しませんでした。

TCR- Tregで消滅したCD25 lowのTregは、eTregに特徴的な遺伝子の発現量が高いことが先行研究で示されています。

このことを反映してか、TCR- Tregで様々なタンパク質の発現量が減少していました。

活性化マーカーである表面分子のCD5,CD38,CD44,CD69,ICAM-1,Ox40,

共刺激分子であるICOS,PD-1,CD28,

TCR刺激による活性化を示す核内因子のEgr2, c-Rel, c-Maf

Tregの機能に重要な核内転写因子のIRF4, Helios, GATA3, KLF4,T-bet,Aiolos

また、4-1BB,CD49b,KLRG1の発現も減少していました。

減少していなかったのはRunx1, Bcl-6で、むしろ増加していたのはCD45RBでした。

poly I:Cを投与してから4,8,12日後で経時的に観察を行うと、

時間が経つにつれてこれらの遺伝子発現の減少が起こっていることがわかりました。

eTregが、TCRの除去によって死んでしまっているのかを検証するために、

死細胞をアネキシンV(アポトーシス染色)とヨウ化プロピジウム(PI)で染色したところ、

ほとんど違いは見られませんでした。

つまりTCRの除去によって何が起こっているかというと、

Tregの中のエフェクター画分が徐々に減少し、

それによってエフェクター活性化に伴う遺伝子の発現も減少したみたいです。

Fig 3

TCR除去による遺伝子発現の変化の多くをRF4が引き起こしている

IRF4はTCRによって誘導される転写因子の一つです。

筆者らは、マイクロアレイを用いることで網羅的に遺伝子発現の変化を検証しました。

様々な転写因子と、その下流にある遺伝子の発現量の変化を見ています。

IRF4の下流にある遺伝子だけに着目して発現量を比較すると、TCR欠損による影響が他の転写因子よりも大きく見られました。

IRF4ほどではありませんが、Egr2,Egr3,c-Relの下流にある遺伝子もTCR欠損によって発現量が変化していました。

様々な遺伝子発現が、自己反応的なTCRシグナルに依存していることがわかりました。

この論文で新たに言えていることはFig4以降にあります。

次回の記事はこちら:論文紹介】Tregの抑制能にTCRが必要(3・最終回)

FOLLOW ME !