【論文紹介】ナイーブなCD4T細胞が受け取るTCRシグナルに強弱がある(3・最終回)

今回は以下の論文のResultを紹介します。

Zinzow-Kramer, Wendy M., Arthur Weiss, and Byron B. Au-Yeung. “Adaptation by naïve CD4+ T cells to self-antigen–dependent TCR signaling induces functional heterogeneity and tolerance.” Proceedings of the National Academy of Sciences 116.30 (2019): 15160-15169.

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.1904096116

Result Fig 5~

basalシグナルが少ない方が強いTCRシグナルが入る

筆者らは、CD5 HIの一部を占めるNur77-GFP HI, Ly6C LOの集団を、basal シグナルがもっとも強く入った集団だと定義し、解析を進めました。

Nur77-GFP HI, Ly6C LOの集団は、TCR刺激前のCD69の発現が高い代わりに、TCR刺激が入る前後のCD69発現の上昇は低くなっていました。

これはNur77-GFPの発現にも言えることです。つまり、GFPの発現はTCR刺激を入れた後は同等になるため、

発現の上昇分は,Nur77-GFP HI, Ly6C LOが最も小さい、ということになります。

直感には反しますが、basalシグナルが少ない方がむしろTCRシグナルが入りやすい可能性も出てきたので、

筆者らは、より直接的にシグナル強度を見るために、

CD3抗体を投与した後の細胞質におけるセカンドメッセンジャーであるカルシウムイオンの濃度を測定しました。

すると、GFP HI,Ly6C LO < GFP MED,Ly6C LO < GFP MED, Ly6C HI < GFP LO, Ly6C HI

つまりbasalシグナルが弱い方がTCRシグナルが強く入っている、という結果になりました。

シグナル伝達の経路としては、PLCγ→Ca2+濃度上昇→ERKのリン酸化

という経路を辿るので、次に、ERKのリン酸化で比較をしてみたところ、

GFP LOの細胞の方がリン酸化された細胞の比率が高い、という結果になり、

Ca2+の濃度測定と一貫した結果になりました。

そのまた下流にあるS6のリボソームタンパク質のリン酸化についても調べ、

GFP HIの集団がS6の低いリン酸化レベルにあったという、一貫した結果を得ました。

S6のリン酸化は、AktとmTorという重要なキナーゼの下流に位置しています。

移入実験:basalシグナルの強さに応じてNur77-GFP,Ly6Cの発現は変化する

①T細胞に入るbasalシグナルは安定しているのかどうかを調べるために、

筆者らは、basalシグナルの強さで細胞をA~Dの4段階に分け、それぞれマウスに移入しました。

しかし、移入から10日経過しても、移入前後でbasalシグナルの強度はあまり変化しませんでした。

筆者らは、4日後と10日後で観察していますが、

4→10日後にかけて、細胞のぼんやりと広がっていくような変化を起こしていました。

②MHCクラスII分子を欠損したマウスに同様に移入すると、

移入前にはGFP HI,Ly6C LOだった細胞はGFP LO, Ly6C HIになりました。

TCR-pMHCの相互作用がbasal signalの維持に必要であることを明確に示しています。

細胞に入るbasalシグナルが減少すると、GFPとLy6Cの発現もそれに応じてすぐに減少することがわかりました。

③逆に、細胞に入るbasalシグナルが増加するとどうなるのでしょうか。

OTIIトランスジェニックマウスから、A~Dのbasalシグナル強度の細胞を取り出して、

マウスに移入した後に、OTIIの抗原であるOVAを免疫しました。

つまり、移入前はbasalシグナルが弱かった細胞が、

移入後に強いbasalシグナルを受けるという実験系です。

結果、A~Dの全ての細胞がGFP HI,Ly6C LOになりました。

basalシグナルが高すぎる細胞はかえって危険?

basalシグナルの強さでA < B < C < Dというふうに細胞を分け、IL-2産生能を比較すると、

A < B < C > D となりました。

basalシグナルが強いということは自己反応性が高いということです。

自己反応性が高すぎる細胞は、自己組織を間違って攻撃してしまう可能性もあるため、

そのような細胞が活性化しやすくなっていることはむしろ生体にとって危険です。

Dだけが急にIL-2を出さなくなっているのは、そのような仕組みなのではないでしょうか。

他にもDの反応性を抑える仕組みがあるのではないかと考えた著者らは、

PD-1の発現を比較しました。

PD-1はTCR刺激によって発現する抑制性の受容体で、

TCRシグナル伝達やエフェクター分化を阻害します。

結果、ナイーブなCD4+細胞に占める数少ないPD-1+細胞がDに集中していることがわかりました。

ANDにTCRを固定すると、PD-1+細胞の比率が特に上昇していました。

Dの全てがPD-1+なわけではないものの、PD-1+のほとんどがDに含まれていました。

一方、抑制性受容体であるCTLA-4や、CD73,FR4といった表面分子の発現量に有意な差は見られませんでした。

basalシグナルが高い細胞はアナジー状態

アナジーというのは、共刺激分子なしで抗原刺激が入り続けることにより、反応性が鈍る現象です。

細胞がTCR刺激に慣れてしまって、実際の敵に出会っても戦えなくなるようなイメージです。

筆者らは、強いbasalシグナルが入ったDなどの細胞は、

アナジーな状態になることによって自己組織への反応を回避しているのではないかと考えました。

アナジーなT細胞には、TCRシグナルの伝達を阻害するE3ユビキチンリガーゼ、GrailとCbl-bがいます。

予想と矛盾せず、AからDにかけて、GrailとCbl-lの発現量が上昇していました。

ちなみに、IL-2とTGF-βをin-vitroで投与した際のiTregになりやすさ(Foxp3誘導能)も、

AからDにかけて上昇していました。

(自分なりの)まとめ

自己反応性の大きさに応じて、細胞は様々な性質を持ちます。

  1. 自己反応性が最も高いものは負の選択でアポトーシスするように誘導されて、成熟できません。
  2. 次に高いものはTregになります。
  3. その次に高いものはアナジーな状態になって、Tconvとして分化しますが、反応性が低い状態になります。
  4. その次に来るのは普通のTconvですが、自己反応性が高いほどIL-2産生能が高く、TCRの刺激はむしろ入りにくい状態にあります。

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