【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(3)
今回紹介するのは以下の論文です。
Levine, A., Arvey, A., Jin, W. et al. Continuous requirement for the TCR in regulatory T cell function. Nat Immunol 15, 1070–1078 (2014). https://doi.org/10.1038/ni.3004
https://www.nature.com/articles/ni.3004
Fig 2
エフェクター型のTregが増殖するために、TCRが必要
CD44lowCD62Lhighな表現型を持つナイーブなTreg細胞の比率をTCRβの有り無しで比較すると、
TCRを持たないTregの方が、よりナイーブな状態の細胞の割合が高い、ということが分かりました。
「割合が増加した」ということから、いくつかの可能性が考えられます。
1 ナイーブな細胞が増えたのか、
2 エフェクターな細胞が減少したのか、
3 ナイーブな細胞がエフェクターになれずに溜まってしまっているのか
4 エフェクターな細胞が増殖しなくなったのか(普通、T細胞は活性化すると増殖します)
TCRの欠損によりこのうちどれが起きているのか確かめるため、
筆者らはエフェクターなCD44high細胞をKi67で染色し、Ki67+細胞の比率を見ました。
すると、TCRを欠損したTregの方が、TCRを欠損していないTregよりもKi67の発現が低くなりました。
Ki67は増殖した細胞のマーカーです。つまり、TCRを欠損していると、細胞はCD44highになっても増殖できない、ということになります。
Tregがエフェクター型になるためには、TCRが必要である
また、「TCRが欠損することによりナイーブなTregがCD44highになれなくなっている」という3 の可能性を検証するため、
今度はFoxp3-YFP-creという遺伝子型のマウスを作製し、Trac-Floxedマウスと掛け合わせました。
このマウスでは、Foxp3が発現するTregにおいて、TCRがノックアウトされます。
何でこのようなマウスを作ったのか一見不明ですが、読み進めるとわかります。
Foxp3-YFP-creマウス表現型解析
新しい遺伝子型のマウスを作ったので、まずは表現型解析です。Foxp3-YFP-cre
creがどれくらいTCRのノックアウトを行えているのかを見ています。
胸腺でのTregを未成熟なものと成熟したものに分け、TCRの発現を調べました。
未成熟な胸腺細胞を定義するためのマーカーにはHSA(CD24),CD69,Qa2などがありますが、ここではHSAを用いています。
結果、未成熟なHSA high TregにおいてはTCRは減っていませんでしたが、
成熟したHSA low TregにおいてはTCRの発現量がわずかに減少していました。
Tregが発現してから、実際にTCRの発現量が減少するまでのタイムラグを反映している結果だと思います。
さらに時間が経過し、末梢に移行した後のTregを見てみると、
最大80%のTregにおいてTCRがノックアウトできていました。
Foxp3-YFP-creマウスを、TCRa-floxedマウスと掛け合わせました。
そして、
TCRβ+細胞とTCRβ-細胞で、
CD44lowCD62Lhighのnaiveな細胞の比率を比較すると、TCRβ-の方がよりナイーブな表現型を示していました。
また、CD103やKLRG1、CXCR3といったT細胞の分化を示す表面分子の発現も減少していました。
Fig3
タモキシフェン投与によるinducible ノックアウトの条件検討
タモキシフェンによるTCRノックアウトの結果を解析しますと、
ノックアウトした方がIL-2産生細胞が多く、CD44highの活性化したT細胞が多いという結果になっていました。
これは先ほど述べた、Foxp3-YFP-creの結果と相反しています。
IL-2によるシグナル伝達は、Foxp3の発現とTregの増殖を促進します。
そのため、この結果の齟齬は、IL-2による活性化が促進されてしまったからだと筆者らは考えました。
Foxp3-YFP-creはその細胞の80%くらいがTCRβ-だったのに対し、
タモキシフェンによるKOを起こすFoxp3-cre-ERT2マウスでは半分くらいしかTCRβ-ではありませんでした。
残りの半分の、TCRβありのTregがIL-2を産生し、それがTCRβ無しの細胞を活性化させてしまったのではないか、という仮説です。
つまり、TCRを介した活性化とサイトカインによる活性化の二つの経路があって、
Foxp3-cre-ERT2マウスではサイトカインによる活性化の影響が見えてしまっている、ということです。
Foxp3-cre-ERT2マウスでも、Foxp3-YFP-creマウスと同じくらいの効率でノックアウトが起こるようにし、
TCRβ鎖ありの細胞から出るIL-2が結果をブレさせないようにするために、
筆者らはタモキシフェン投与の頻度を変更しました。
今までは生後0日目、1日目に投与し9日目に解析していましたが、
生後0,3,7,10日目に投与し、13日目に解析をするようにしたところ、
75~80%のTregでTCRがKOされました。
タモキシフェン投与によってTCRをKOすると免疫系が活性化する
より効率の良いKO条件で再び表現型解析を行うと、
KOはWTよりもリンパ節でTconvの数が上昇し、CD8+T細胞の数も有意に上昇していました。
Tconvに関しては、IFN-γ、IL-2,IL-4,IL-13,IL-5.IL-17の産生量が増加し、
CD8+T細胞に関してはIFN-γの産生量が増加していました。
この結果は、免疫系が活性化しているということを示しています。
同様の活性化は、Foxp3-DTRマウスでも見られていて、
これはジフテリアトキシンを投与した時にだけFoxp3を除去する系になっています。
DTRマウスよりかは免疫系の活性化は弱いらしいです。
TCRがTregによる免疫の抑制機能に貢献することの証明
TCRが無いTregの割合が増加すると免疫系が活性化する、ということは、
TCRがTregによる免疫の抑制機能に貢献しているということを示唆しています。
免疫系が活性化しているものの、自己免疫疾患の発症には至らないのは、
20%程度残っているTCRβありのT細胞のおかげかもしれません。
完全にTCRβありの細胞を除去して、自己免疫疾患が発症することを確かめられれば良かったんですが、
タモキシフェンが投与できない出生前にもすでにTregは生まれているので難しいです。
代わりに、Tregの除去によって自己免疫疾患を発症するマウスであるFoxp3-DTRマウスとTregの比率を比較しています。
ジフテリアトキシンだって生後にしか投与することはできませんが、自己免疫疾患を発症しています。
ジフテリアトキシンによるTregの除去は24時間持続し、タモキシフェンによる遺伝子組み替え効果は4日間続くらしいです。
より正確な比較のために、Foxp3-DTRマウス、Foxp3-cre-ERT2 x Trac WT/WT,Foxp3-cre-ERT2 x Trac FL/FLの全てに、ジフテリアトキシンとタモキシフェンを両方投与して比較しましたが、
DTRマウスにおけるTconvのサイトカイン産生と同等、 もしくはそれよりも多い量で,
Foxp3-cre-ERT2 x Trac FL/FLマウスのTCRありTregはサイトカインを産生していました。
Fig4以降は(4)で扱います。