【論文紹介】PD-L1抗体が疲弊したT細胞を再び元気にする仕組み(1)

今回紹介するのは以下の論文です。

“Type 1 conventional dendritic cells maintain and guide the differentiation of precursors of exhausted T cells in distinct cellular niches”

Dähling, Sabrina et al.Immunity, Volume 55, Issue 4, 656 – 670.e8

introduction(導入)

「免疫チェックポイント阻害剤」である新しい抗がん剤「オプジーボ」は最近ノーベル賞を取ったことで有名になりました。

T細胞には2種類あります。主に「キラーT細胞」になるCD8+T細胞と、主に「ヘルパーT細胞」になるCD4+T細胞です。

CD8+T細胞は抗原を認識し、活性化すると、炎症性サイトカインを放出して、同じ抗原を提示してきた細胞を殺します。

そうすることによって、がん細胞やウイルス・細菌に感染した細胞をアポトーシス(意図的な細胞死)に誘導し、体を守ります。

T細胞は、T細胞受容体を介してMHC-ペプチド複合体と結合するのが主ですが、

T細胞が活性化するためには、共刺激分子を介したシグナルも必要です。T細胞が持っている共刺激分子をCD28と言います。

抗原を提示してきた細胞の表面にある、CD80(ホモ二量体)やCD86(単量体)と反応します。

PD-1は反対に、T細胞の活性化を抑える受容体です。癌細胞や感染細胞が出すPD-L1と結合すると活性化しなくなります。

CD28を介して入る活性化シグナルを抑えているらしいです。

ずっと結合して、刺激が入り続けていると、T細胞は「疲弊」と呼ばれる状態になります。

T細胞としての機能(殺傷能力)が低下すると言う状態です。

ずっと抑圧されて生きていたらいつの間にか疲れてしまって、暴れ回る気力を失ってしまった人、みたいな感じです。

疲弊T細胞をexhausted T cell(Tex)と呼びます。

癌細胞や感染した樹状細胞(DC)、マクロファージ(MΦ)はPD-L1を表面に持つことで、CD8+T細胞からの攻撃を免れています。

そこで、PD-L1だけに結合するタンパク質を用意します。

これをPD-L1抗体と言います。オプジーボはPD-1の方に結合する抗体医薬ですが、

PD-L1抗体も抗がん剤になっています。

PD-1とPD-L1の相互作用が無くなったことによりCD8+T細胞から抑制シグナル(ブレーキ)が外され、

CD8+T細胞は活性化してエフェクター型(Teff)になり、感染細胞や腫瘍細胞を殺す…と考えられてきました。

PD-L1抗体がTexを再活性化させるメカニズムとして、この論文は新しい仮説を提唱しています。

Texの前駆体(precursorのpを取ってTpex)が存在し、PD-L1抗体はTpexがTexになるのを促進することで、

Teffになる細胞数を増やしている、と言う仮説です。

TpexはTCF1とID3を発現していますが、TexはTCF1を発現せず、Tim3を発現しています。つまり、異なる種類の細胞です。

今までTex→TeffにPD-L1抗体が関与してきたとしか思われてこなかったので、これは比較的新しい仮説です。

この論文が初出ではないみたいです。

異なる論文をreferenceとしていますが、以下のサイトが関連する内容を(私よりも)わかりやすく説明しています。

https://cell-medicine.com/topics/がん組織の中でメモリーt細胞が分裂増殖するこ/

(2)では実験系と結果に入っていきます。

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