【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(2)

以下の論文を解説しています。

Levine, A., Arvey, A., Jin, W. et al. Continuous requirement for the TCR in regulatory T cell function. Nat Immunol 15, 1070–1078 (2014). https://doi.org/10.1038/ni.3004

https://www.nature.com/articles/ni.3004

前回の記事はこちらです。

【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(1)

Fig1

マウスの表現系解析

検証に移る前に、実験で用いたマウスの表現型を解析しています。

理論的には、このマウスは、T細胞受容体(TCR)のβ鎖が、タモキシフェンを投与した時にTregだけで、発現しないようになっていますが、

実際のところはどうなのか、というのを調べています。

他の論文ではタモキシフェンを48時間ごとに投与していることを考えれば、

0~1日目にタモキシフェンを投与すると、体の中には出生直後から3日齢くらいまでタモキシフェンが残っていることになります。

出生直後のマウスは小さい分、薬の分布容積も小さいので、多分もっと長時間残っていますが、それは主眼じゃないので調べられていないです。

というか胸腺で作られたT細胞が末梢に来るのにも時間がかかるので、4~9日齢に作られたT細胞もほとんど影響を与えないと考えても良さそうです。

筆者達が知りたいのは、この投与によってどれくらいのTregがTCRのβ鎖を欠損したか、ということです。

Fig1a ではTCRのβ鎖の発現を見るためにFACSを行なっています。

Tregにgateをかけると、そのうち60~70%がTCRを失っているように見えます。これが

残りの30~40%は、生まれるまでに作られたTregだと思われます。

Tregが出来るのには、TCRが必要なので、ここでのTCRβ陰性細胞は以下のような経歴を辿っていると考えられます。

TCR発現→Foxp3発現→TCR欠損

TCRを欠損している時期が、筆者らがTCRの必要性を調べたい時期にぴったり当てはまっているというわけです。賢いなあ

Foxp3の発現維持にTCRは必要ない?

Foxp3は転写因子なので、ゲノム上の様々な場所に結合して効果を発揮します。

Foxp3の発現誘導に関しては、NF-κBという転写因子を介したシグナル伝達が必要です。

また、Foxp3が結合する場所にNFATやc-Relがあります。

NFATはIL-2の発現を調節する因子として有名です。

c-RelはNF-κBファミリーの分子で、これ自体がFoxp3の発現を制御する役割を持っているそうです。(詳しくない)

分化する時に、最初にFoxp3を発現するのにはTCRが必要ですが、その後、Foxp3を発現し続けるのにTCRが必要かどうかは知られていませんでした。

TCRβ鎖を欠損したTregと欠損していないTregでFoxp3の発現強度を比較すると、ほとんど変化していませんでした。

ここから、Foxp3の発現維持にTCRは必要ないということがわかります。

同様に、Tregに特徴的に発現している他のタンパク質についても、発現維持にTCRは関係ないことがわかりました。

CD25,GITR,CD39,CD73がそれに当たります。

(TregとTconvが異なる仕組みによって制御されているわけではない、ということを示唆している?)

リンパ節+脾臓におけるFoxp3+細胞の絶対数も変化していませんでした。

(9日齢の結果である、ということを考慮する必要がありそうですが)

でもこの調べ方にはそもそも欠点があって、Tregの中でFoxp3の発現量を比較しているのですが、

そもそもTregの定義にFoxp3を使用しています。

TCRがある時にはFoxp3を発現していて、TCRが無くなったことにより完全にFoxp3の発現を失ってしまったような細胞は、

後者の解析から漏れてしまいます。

Rosa26によって、Tregの遺伝子発現を維持するにはTCRが必要ないことを正確に検証した

この可能性を排除するために、筆者らはさらにRosa26-YFPという遺伝子型を追加しました。

creが、YFP上流に存在する、loxp配列に挟まれたstopコドンを切り取ることによって、

stopコドンによって発現が妨害されていたYFPが発現する、という仕組みです。

Rosa26という配列を持っていると、常にRosa26の下流遺伝子は発現しているので、

(ユビキタスに=恒常的に発現する遺伝子のプロモーター、という感じ)

YFPの発現有無がcreの発現有無に完全に対応する、という理解をしています。

つまり、creが機能した時にTregだったものがYFPで光っているので、

Foxp3の発現を失ってしまってもちゃんと追跡することができます。

YFP+に限定してFoxp3の発現を比較しても、TCRβ+とTCRβ-で有意に差は見られませんでした。

IL-2サイトカイン減少→TCRシグナル→Foxp3発現減少

また、筆者らは、IL-2抗体をマウスに投与して同様の実験をしています。

IL-2抗体を加えると、Foxp3の発現が減少するそうです。

しかし、TCRβをノックアウト(Knock Outの頭文字を取ってKO)すると、

Foxp3の発現減少も見られなくなってしまいました。

このことは、「IL-2が減少すると、Foxp3の発現が減少する」という現象が、

TCRを介して行われていることを示唆しますが、

それが今後の論理展開にどのような影響をもたらすのかはよくわかんないです。

Fig2の内容は(3)に続きます。

記事はこちら:【論文解説】Tregが末梢で生き残るためにはTCRが必要(3)

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